黴ブログ

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こんな秋の夜長には鬱くしい人間賛歌を 鬼頭莫宏「なるたる」を読んだ

ここのところ寒い日が続いていますが、皆さんお元気ですか。僕はというと、余りの寒さに連日毛布の中でガタガタ震えています。さすが秋、寒さが半端ねえ。家の中でもライダース着てるぜ。暖房?東北出身をみくびるんじゃあないぜ。そんなん節約だぜ。そして日が落ちるのも早い。午後4時を回れば辺りはたちまちコーヒー色した闇に飲み込まれてしまう。

 

しかしそんな秋の夜長はお家で音楽を聴くのに持って来い、読書をするのに持って来いだ。つい先日も1作の漫画も読み終えたばかり。鬼頭莫宏氏のなるたるという漫画なのだけれど、これがまた凄いんである。ドキドキとワクワクを超えて、絶望感にマウントポジションで心をボコボコに殴られたような読後感。何だか怖いし悲しいしやるせない、しかしページをめくる手は止められない。ダークな内容なのにも関わらず、妙に引き込まれる漫画であった。

 

新装版 なるたる(1) (KCデラックス アフタヌーン)
 

 

こちらのなるたる、竜の子と呼ばれる物凄い力を持つ謎の生命体とリンクした、選ばれし少年少女達が残酷な運命の元に集い、次第に壮絶な戦いに巻き込まれていく、というストーリー。表紙のポケモンみたいな可愛いのがホシ丸と名付けられた竜の子で、それに乗ってる女の子が主人公のシーナ。

 

現代を舞台にしたSF物ともいうべきお話なのだが、可愛らしい表紙の絵に騙されてはならない。いざページをめくったならばそこに広がるのは、アウトレイジもビックリな生々しく残酷なセックス&バイオレンスな世界。殺し殺されてのヘビィな残酷描写のオンパレードなのである。

 

この竜の子と呼ばれる生命体、本気を出したら軍隊も手におえないような驚異的な力を持っている。そんな能力を駆使してある者は世界を崩壊させる為、ある者はそれを阻止する為、またある者は大切な人を守る為、ある者は自身を傷つける者に制裁を加える為、それぞれの理由と目的の為に戦いに投じていくのだが、その様がとにかくえげつない。

漫画にありがちなご都合主義は一切無しで、メインキャラもモブキャラも次々と命を落としていく。そしてそんな死は人の恨みや怒りに火をつけて、国や軍隊をも巻き込んで血を血で洗うような争いへ発展していくのだ。それぞれの想いが錯綜していく中で挿入される、少年少女達の内面を想像させる巧みな心理描写がまた痛々しい。とにかくバンバン人が死んでいくわやたら生々しい性的なシーンは多いわで、読んでいるとドッと重い疲労感に襲われて何だかもの悲しい気持ちになってしまう。しかし一方でこの漫画、人間的過ぎる程に人間を描いた、人間賛歌ともいうべき名作だと思う。

 

自分の愛する人を何としてでも守りたい、弱くて傷だらけの自分自身を守りたい、間違いだらけの世の中をどうにかして変えたい、大切な人を傷つけた奴をどうしても痛い目にあわせたい。ただ胸の中にあるのはそんな各々の燃えたぎる愛と正義。人の心というものは実に様々で、誰かにとっては悪でも、角度を変えれば他の誰かにとっては正義だったりもする。そして決して交わらないそんな気持ちは、どうしても争いに発展していってしまう。

 

しかし、例え傷ついて失ってしまうだけだとしても戦う彼らの心は、グロテスクでもある一方、どこまでもひたすらに透き通っていて純粋で美しい、とも思う。何かを変えたい、自分自身を、誰かを守りたい。これ全部、根底にあるものをすくい取ってみれば、ただ純粋な愛や正義だと思うのだ。例え血みどろの戦いの中であろうと、傷つき倒れようとも、全てが無駄に終わろうとも、彼らの心の底にあるそんな想いはどこまでも透き通っていて美しい。勧善懲悪では無い、そんなそれぞれの愛と正義をリアルで美しい筆致で描いた名作だと思います。

 

気温も低く静かで、どうにもセンチメンタルな雰囲気漂う夜が続いている今日この頃。愉快な映画や音楽も良いけれど、そんな秋の夜長だからこそ、敢えて鬱くしくも綺麗に透き通った人間賛歌に心を預けてみてはいかがでしょうか。なるたる、おススメです。

 

本日のテーマソング

LED ZEPPELIN/stairway to heaven