黴ブログ

好きなものやことを、徒然なるまま書き散らす。

西加奈子「うつくしい人」を読んだ

想像を絶するレベルで寒い日が続いていますが、皆さんお元気でしょうか。休みの日には出かけたい派の僕もあまりの寒さに外出するのがはばかられる日が最近は多いです。持ち前の低血圧の影響か、気温が低いと頭痛が酷くて辛抱たまらんのですわい。そんなこんなで夜は貪るように本を読んでいます。寒くなってくると読書が捗るような気がするのは気のせいだろうか。。そんなこんなで今日は最近フェイバリットの小説家である西加奈子さんの、読み終わったばかりの小説、うつくしい人について読書感想文的に書こうかと思います。自分の気持ちを文字で表現するというのは、とても難しい、でも楽しい。さてさてそんなテンションで今日もいっくよー。

 

 

うつくしい人 (幻冬舎文庫)

うつくしい人 (幻冬舎文庫)

 

 

主人公は他人の目を常に気にしてびくびくと生きているOL・蒔田百合。自意識過剰過多な彼女は、会社での単純なミスがきっかけで会社を辞めてしまいます。そうした状況でほとんど衝動的に旅立った先は、瀬戸内海の離島にある、とあるリゾートホテル。そこで出会った風変わりな冴えないバーテンダー・坂崎と大金持ちでイケメンだが変わり者のドイツ人・マティアスとの交流の中で、失くしたはずの自分自身に気付き、再生していく5日間を描いたこの小説。全編通して特に大事件が起こる訳でも、熱い恋が展開される訳でもない、あらすじにするとこれだけのシンプルなストーリーなのですが、とても熱いパッションに満ちた、素敵な小説でした。

 

ちなみに皆さんは他人の目を気にして生きている方でしょうか。常に周りの人や友達の評価を気にして、周りの「良い」と言ったものや空気に従い、目立たないようにしよう、本当の自分なんて出さないようにしよう、上手くやっていこう、みっともない、ダメなやつ、なんて思われないようにしよう、何なら皆に羨ましがられる自分でいよう。そんな気持ちでいることはないでしょうか。現代社会で生活する上で、大なり小なりはこういった気持ちになることが、誰しもあるのではないでしょうか。しかしずっとそれだけでは、心が辛くなってしまうのもまた事実。本作の主人公は正にその典型的パターンのような人物。むしろ、それをずっと昔から続けてきた超自意識過剰なタイプで、うーむ、本当にめんどくせぇ奴。お前それはどうなのよ!?なんて言ってやりたい気もするのですが、読んでいく程に自分の中にもそんな主人公のような自分がちらほらと存在することに気付くのです。むしろかなり多く存在する、そんな「めんどくせぇ」自分自身に気付いたら、嫌悪感を抱きつつ(自己嫌悪かもしれん)夢中になって読んでいる僕がいました。

 

タイトルの「うつくしい人」とは一体何だろう。それは本文の言葉を借りるなら、『ただ「自分」であり続け、その「自分」の欲望に従って生きること』。大事な自己を失くしてしまった主人公が、自分を取り戻し再生するきっかけとなった、坂崎やマティアスも一見風変わりで、実に様々な問題を抱えていますが、それでも彼らはどこまでも自分自身で居続ける、「うつくしい人」でした。そして百合が最もコンプレックスを抱く、超自意識過剰の元となった姉もまた、どんなにひどい状況でもただひたすら自分自身で居続ける「うつくしい人」でした。そしてそんな「うつくしい姉」と対極の醜い空っぽの自分から全力で逃げるような、非常に重い前半から一転して、自身の本当の気持ちに気づいて、自己を取り戻していく後半のスピード感がとても気持ち良かった。涙腺をグイグイ刺激するような、まさに「美しい」シーンやセリフに引き込まれた一冊でした。3人でホテルのカートに乗って深夜に道路を疾走するシーンや、地下の図書館で写真を探すシーンなど、とても胸に響く場面がたくさんありました。

 

自分が誰かを美しいと思っている限り、そんな想いは巡り巡って、自分もまた、誰かにとっての「うつくしい人」なのだ。そんなことを短いながらも圧倒的説得力で書ききったこの小説、とても面白かったし、感動した。西加奈子さんの小説はどれも、「それで良いんやで、間違ってないんやで!!」と肯定し、背中を押してくれるような作品が多い気がします。まるで少年時代に夢中になって聴いていた音楽のような、そんな小説を書いている素敵な作家だと思います。まだまだ未読の作品が多いので、これからどんな小説に出会うかとても楽しみでもあります。毎日面白くないようなことも多い日々、自分自身に疲れることも嫌いになることも自信が消え失せることもままありますが、そんな僕自身もどこかの誰かにとってはきっと「うつくしい人」なのでしょうね。誰かを羨んだり、想ったりしつつも美しくただ自分自身でありたい、そんな気持ちで明日もまた駆け抜けていこうと思う次第であります。

 

本日のテーマソング

毛皮のマリーズ/ビューティフル